今回は前回に引き続きレーザー溶接機とロボットを組み合わせていく事のメリットやポイントを解説していきたいと思います。
レーザ溶接機の種類
レーザー溶接機の種類前回のコラムでも記載した様にレーザーと言っても多くの種類があり、それぞれにメリットやデメリットが存在します。
そんな中でも昨今生産現場への導入が盛んなファイバーレーザーを中心に話を進めていこうと思います。
ファイバーレーザーの特徴結晶を使用した固体レーザと比べてファイバレーザは、細いファイバ内に光を閉じ込めているためエネルギー変換効率が高いという特徴があります。
また、ファイバは細くて表面積が大きいので冷却しやすく高出力化でき、ファイバと光部品を一体化できるため光軸ずれがなく安定・高信頼・保守が容易です。さらに、ファイバ出力なのでビーム品質が優れています。高出力且つ安定性が高いという利点から様々な加工に応用されています。
ロボットとの相性の良さ
そもそもレーザーで溶接などの金属加工を行う為にはレーザー光を局部に集中させる必要があります。その為にレーザー溶接機には集光レンズなどによって焦点距離や焦点深度をを調節する必要があり、この集光点を一定にする事が出来なければ加工品質が安定しないという前提があります。
・焦点距離が短くなればなるほど
→レーザービームの集光径が小さくなる→より微細な加工ができる
・焦点距離が長くなればなるほど
→レーザービームの集光径が大きくなる→微細な加工はできないが焦点深度が長くなる分、焦点が合う位置が長くなり焦点合わせがしやすくなる。
ファイバーレーザ溶接機
最近特に人気で注目を集めているハンディタイプのファイバーレーザー溶接機などは焦点距離を一定に保てる様にトーチ先端に様々な形のチップが付いていてチップ先端をワークに接触させながら滑らす様にトーチを移動させる事でその品質を担保する様に作られています。
逆にいうとチップが当てられない様な環境では人間が焦点距離を一定に保つ事が出来ない為加工する事が出来ません。
もう一つ問題なのは送り速度です
ファイバーレーザー溶接機は高出力で非常に短い時間で深部まで溶け込みするので従来のアーク溶接に比べると格段に速い速度でトーチを送る必要があります。
ワークにチップを当てながら速い速度でトーチを動かす事は非常に難しい為、結果的には作業によって品質に影響が出てしまいます。
200mmとかの近距離であれば人間でも一定速度で動かす事も可能でしょうが、溶接距離が長くなればなるほどその難易度は高くなります。トーチの送り中にチップが何かと接触して止まってしまったなんて事もあるでしょう。
そこでロボットの登場です。
ロボットは人と違い一定の動きをする事が得意です。ワークと非接触の状況でも焦点距離や焦点深度を一定に保ちながら移動する事が可能ですのでレーザー溶接機とロボットは非常に相性が良い事が伺えます。
ガルバノスキャナとの組み合わせ
ガルバノスキャナという機器をご存知でしょうか。ミラーとスキャナ(ミラーを駆動させる動力源)とのドライバーからなる機器で、レーザー光を効率的に様々な焦点距離や位置に調整可能な機器です。この技術は特にレーザーマーキングなどに良く使われている様に、レーザー光源特に加工物の距離が離れていて微細な集光点の調整が必要な機器に用いられます。
このガルバノスキャナとファイバーレーザーを組み合わせたシステムをロボットと組み合わせて使用する事で、これまでにない溶接作業何可能になります。
ガルバノスキャナレーザー溶接機+ロボットのメリット
加工するワークとレーザーヘッドとの距離は300mm程度離す事が出来ます。これにより入り組んだ形状で溶接トーチが入らない局部の溶接も溶接可能です。
また、溶接する際に必ず用いられる治具やクランプレバー等との接触なども気にする必要が無くなりますので運用面でも安心です。
更にガルバノスキャナには2Dと3Dがあり3Dタイプであれば、ロボット軌跡を動かさなくてもガルバノスキャナの制御だけでレーザー光を様々な場所に振る事が出来ます。
ワブリングという機能を使って溶接ビード幅を調整する事も可能ですしSPOT溶接的な使い方も可能です。
このように従来のアーク溶接に比べて色々な溶接が可能になるので、より汎用性の高いロボットシステムを構築する事が可能です。
ただしワークとレーザーヘッド間の距離が離れている為にフィラーや溶接ワイヤーなどの溶剤の添加には適してませんので、TIGのナメ付けの代用が基本的な使い方と思います。
もしフィラー等を使用するのであればガルバノスキャナではなくトーチ型のファイバーレーザーをロボットに搭載する事で自動化が可能です。
レーザ溶接機とロボットを組み合わせる際の注意点
ロボットとレーザ溶接機を組み合わせて溶接を自動化する際に最も注意するべきポイントは、ロボット座標と加工現物の座標誤差です。
この誤差は、基本的にモノが動くポイント全てにおいて発生する可能性があります。
・ワークの位置決め精度
・ワークの個体差
・前加工精度
・ロボットマニピュレータのたわみやゆがみ(剛性)
・2軸ポジショナやスライダーなどの外部軸
何故、ロボット座標と加工現物の誤差がレーザ溶接機とロボットを組み合わせて使用する際に注意が必要かというと、溶接の狙いが非常にシビアな為です。
上述したように焦点距離や焦点深度が重要かつ、レーザー光が極小な為、その分狙い位置をシビアにコントロールする必要があります。
この問題を解決する為の方法やポイントも沢山あるのですが、ロボットと組み合わせたシステム設計段階からこのような事に注意してシステム構築していく必要があるでしょう。
まだまだレーザー溶接機とロボットを組み合わせる際のポイントやメリットはありますが、今回はここまで。
従来のアーク溶接はそのままに、新たな溶接技術の習得を検討している金属加工業の方は多いかと思いますが、導入を検討する際はロボットと組み合わせての導入を是非おすすめします。
これまでの固定概念を捨てて新しいものづくりを目指して自動化を進めていきましょう!
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